HOME >
NHKスペシャル エベレスト~世界最高峰を撮る
2012.02.09|iwamura
「おれは、それが一番美しく見える場所を、知っているから。」
「おい、ガイドが必要ないか。」
カトマンドゥはタメル地区。
体臭と喧噪、わずかに漂う山の匂い。
街を歩いているときに、自分を観光客と見定め、売り込みに近づいて来た男がいた。
彼の売り文句が冒頭の言葉である。
「そうか、お前はエベレストを見ることが人生の夢の一つだったのか。
よし、わかった。俺を連れて行け。
なぜなら、俺はそれが一番美しく見える場所を、知っているからだ。」
交渉成立。
1日に10ドル。客の荷物は持たない(ポーターではなくガイドであるよという彼の尊厳)。
宿代、飯代、彼の分は当方持ち(現地人間は旅行者と違う料金設定がある~もちろん、食事や宿泊施設の内容が客と同じことはまれであるが~)。
あとは、エベレスト街道玄関口、ルクラまでの往復チケット2名分を当方が持つ。
彼は、このガイドで100ドルをママに渡せると気合を入れていた。
※ルクラ(2800メートルぐらい)空港は空母みたいで激ヤバ。滑走路は400メートル程度。風や霧もすごい。「世界で最も危険な空港のひとつ」としても有名。
エベレスト街道はルクラから始まる。
既に空気は山のものになった。心地いいぴりっとした硬さが、空気の中にある。
その日はルクラ泊。翌日から街道を歩きだす。
そして歩きだすとすぐに、始まってしまうのですヒマラヤの風景が。
見えてくる見えてくる。
神々の山嶺(いただき)たちが。
サガルマータ国立公園を入ると、もはや「ヒマラヤのふところに飛び込んだ」感がありました。
これが世界のジャイアンツたちか。
長野育ちですから、「3000メートルの2倍とか3倍ぐらいかな」という大方の予想はしていたものの、いや、とにかく未経験なデカさなわけです。
写真では伝わらないなあ。本当はもっと大きかったんだけどなあ。
そして、ガイドの彼は3日目、約束通り連れて行ってくれたのでありました。
ホテル・エベレスト・ビューから望むエベレストがこれだ。
息をのむような、と、よく形容されるが。
息ができなくなる、圧倒的な質量をともなった、美しさであった。
胸が苦しい、そんな風景だった。
標高8848メートル。
この地上で唯一無二の場所。トップ・オブ・ザ・ワールド。
そんな山嶺に、われらがNHK先生が、ついにハイビジョンカメラを持ち込み、撮影に成功いたしました。
正月の番組だったっぽいけど、これはすごいわ。
逆にこんなに簡単に見せてもらっちゃっていいのかなという感じ。
小生の後輩も世界100か国以上を回ったハードコアバックパッカーだったが、チベットヒマラヤの国境越えを境に、真面目に就職してしまった。
曰く
「地球上にこんなにも美しい景色があることが分かったので、もう旅はいいかなと思った。」
さて。
冒頭に話を戻しますが、ネパールの最大の収入源は観光です。
この国は貧しい。
1988年の水害では、国土の60%以上が水没。
1億人の国民のうち、3000万人が家を捨てたといわれる。
また、昨今はブータンとの民族問題もある。
洪水、貧困からの民主化運動の成功。一時的とは言え、共和制がしかれた。
ネパールと同じく王政をしいていた隣国ブータンは革命の飛び火に恐れをなして、ネパール系住民の国外退去を命じた。
ただでさえ苦しい情勢に、難民の受け入れ。
90年代初頭から、この国のリアルな環境問題と経済危機はすでに始まっていた。
増える人口、切り倒される木々、温暖化、発生する洪水、観光客数の減少。
—————————————————————————————-
我々には今日も明日もやることがある。
毎日仕事をしなければならない。
その「仕事」が、地球の生命を縮めている可能性だってある。
もちろん、旅行やレジャーだって、同罪ではある。
ただ、そうしたカルマにまみれた我々の人生に、一瞬の考える暇(いとま)を、ヒマラヤは与えてくれた。
そこには強く美しい、神々がいた。
飛行機代分、その後の人生で地球に貢献できることが約束できそうなら、
ぜひ一度、体感してもらいたい、地球の屋根たちです。
おすすめでございます。